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新・なまず日記


2010-08-09 [月]

_ [その他] ピアス



彼女のピアスはいつも左耳だけ。
だからオレ、聞いたんだ昔。
「もう片方は、なくしちまったのかい?」
彼女は、少し間を開けて、言った。
「...ピアスしてます、って言うより、よく見たらしてる、ってくらいの、控えめなのがいいから...」
へぇ、ピアスしたから見て見てぇ、じゃないんだ。女の子ってのは不思議だな。


最近、また彼女に会ったんだ。
そこで、ひょんなことから、彼女が昔、訪問介護の仕事をしていたことを知った。

「訪問介護。いや、オレも、こないだ、ほんのちょっとだけ、そのマネゴトをやってね。いや、ありゃ、大変だよ。老人だって図体でかいとさ。下の世話なんてマジ大変!」
彼女は、自負するでもなく、淡々と言った。
「こっちが力を入れたら、ダメなんです。相手の力を使わないと...どんなに寝たきりの方でも、力があるんです」
「そういうコツは、訓練して身につけるのかい?」
「いいえ、だんだんに、わかってくるんです」
「...」

こんな話、しなきゃよかった、と、後悔した。このことは、個人的なことだから。でも、彼女は、その質問をするだろう。どうしよう?ごまかそうか?...ほら、来た。

「どなたの介護をなさったのですか?」
「......いや、その...父なんだけど...」
「まぁ...今も?」
「...いや...ついこないだ、逝った」
「...」

「でも、こんなこと言うのも失礼ですけど、家族の方に介護されて、お父さん幸せだったと思います...最近多いんです。訪問介護に任せたって思って、ご家族の方、誰もいらっしゃらないんです」
「...まぁ、介護っていっても、一日だけだけどね。すぐ亡くなったし。だけど、自宅で死に目に会えたのは、良かったと思う」

「...私、訪問介護に行ったら、その方、誰もいない家で、もう、亡くなられてたことがあります...」
「...」
「...私、そのときのこと、何度も夢で見て...」
「...」
「...だから、お父さん、幸せだったと思います」


オレは、すこしだけ、泣いたかもしれない。

照れ隠しに、腕時計を見せた。
「これ、父の形見」
「ああ!そういうの、大事ですよね!このピアスも、おばあちゃんの形見なんです...時々、指でさわるんです」
オレは、もう一度、似たような質問を、彼女にすることになった。
「おばあちゃんは、もう片方は、なくしちまったのかい?」
「いえ、姉妹で、分けたんです」

彼女の小さな嘘は、こうしてバレた。
オレは、そのことに、とても感謝している。

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